第15回 山口100萩往還マラニツク大会

チャーリーさんの
「もうひとつの萩往還」

原田和裕


「もうひとつの萩往還」・・・それは1通のメールで始まった。

5月2日 18:05,マナーモードにしていたケイタイがズボンのポケットでムズムズと動いた。「ありがとう。今、目の前に江口さん、淵上さん、松原さん、そして衛藤さんがいます。頑張ります」の文面。発信人は明日、私と一緒に140kに参加する田中さんからのもの。サブタイトルに「佐藤さんから・・・」の表示。「佐藤さん?」「えっ?」発信時刻を見ると18:01。「そうだ!あの人達、今からスタートするんだ!」私の頭はいっぺんにはじけてしまった。「いよいよ始まるんだ、萩往還が・・・・」、続いて「淵上さんから」のサブタイトルが着いたメール。「眠いよ〜。でも頑張りま〜す!」私は隣の同僚に「この人達、今から250k走るとバイ。48時間かけて・・・。すごかろ?」とメールを見せた。同僚は「250k?、48時間?」・・・あまりのケタはずれの私の言葉に完全に言葉を失っていた。

5月3日、いよいよ、私達の本番の日。8時に車で福岡を出発。
いままで何回も当日のスケジュール、ランニングスケジュールを検討してきたが、車の中で再確認をしようとした時、田中さんがポツリと言った。「横田さんが苦戦しているみたい。川尻岬のチェックポイントが最後になるかもって・・・」
「そうかー。キツイッチャロネェ。」田中さんは車の中から、佐藤さん、江口さん、淵上さんに続けてメールするが、「誰も返事が来ない。」とさびしそうに一言。江口さん、淵上さんはこれまでウルトラ初心者の私達に色々アドバイス、応援してくれた、その彼等が、今、必死に戦っている・・・と思うと、再び頭の中でプチンと切れるものが。

「行こう、応援に!!」「行きましょう!」山口を目の前ににして大きく左にハンドルを切り、一路川尻岬方面へ。
そして途中で長門方面に向かい、千畳敷へ逆走することに。コース図とロードマップのニラメッコが始まった。1時間ぐらい走っただろうか、突然田中さんが、「あの走っている人、ランナーじゃない?」と声を上げた。よく見ると背中に白いゼッケンに「A−XX」の表示。やっと会えた、250kのランナーだ。両サイドの窓を全開にして、大声で叫んだ。。「頑張って下さ〜い!」
一人、また一人。追い越すランナー全てに大声で声援を送り続けた。まるで選挙カーのように。
14〜15人ぐらいに声をかけた頃だろうか、隣の田中さんの声が急に小さくなって、震えだしていた。感極まっていたのだ。私は声をかけなかった。声をかけると私までおかしくなってしまいそうだったから。
ところがここで問題発生。応援に夢中になりすぎて、千畳敷への道をまちがえてしまったのだ。コース図とロードマップを確認し、Uターン、一路千畳敷へ。
だが千畳敷では数人のランナーはいたが、目指す仲間達は見つからず、車一台がやっと通れる細い道をさらに逆走していった。空地に車を止め、ここからは徒歩で捜索開始。しかし5分、10分経っても見つからなかった。私はどんどん先を行く田中さんに「11:30がリミットバイ」と言い残し車え戻り、すぐ出発できるよう車の方向を変えてさらに待った。11:30,田中さんが戻ってきた。「いなかった」「いない?」・・・「何のためにここまで来たんだ。一人も会えずに帰るのか?」私は再び車を逆方向に変え、「行くよ、探しに!!」と言った。田中さんも気持は一緒だった。
そしてついに待望の一人目発見、柳さんだ!後日談だか、私達の車を見たとき、「こんなせまいところを車でくるなんて、何て奴だ!」と思ったそうだ。”すみません。”
そしてほどなく松原さんを発見。いつものやわらかい笑顔で応えてくれた。海が見える坂道にかかった時、ガードレールに両手をついて屈伸をしている人物がいた。あの大きな背中、ガッシリした体格、「ありがとう・・・」のメールをくれた佐藤さんじゃ?「佐藤さん!!」その人物は振り返った、佐藤さんだった。「オーッ」腰は大丈夫ですか?との問いに、「腰はいいんだけど・・・」言いながら、力なく千畳敷へ向かって走り出した。立石神社?(注)という付近で、いつになく真剣な顔つきをした淵上さんが二人でやってきた。翌日にレースをひかえた日の夜遅くまで中州で飲んでいて、スタートラインに立った時は「眠いよ〜!」のメールをくれた淵上さん。
「よ〜っ!何!なんでこんなところにいるの?」といった顔をして走り抜けていった。まだいけそうだ。それから2〜3分経った頃、道が二手に分けれた所に。真っ直ぐ行こうか、海沿いに下る道を行こうか迷った時、「江口さんだ!まちがいない、江口さん!」と田中さんが叫ぶなり車から降りて、カメラをもって江口さんにかけ寄った。
「私が撮ってあげるよ!」と二人のツーショット。「どうしたん?」と江口さん。「応援に来たんです」と田中さん。
そのまま仲間の淵上さんを追走していった江口さんは、後日、この時のことを「自分たちのレースがあるのに、こんな所に来るなんてアホちゃうか、でも、メッチャうれしかった!」と言ってくれた。
本当は、あと衛藤さん、横田さんもとも会って応援したかったが、そろそろ、自分たちのレースのことが心配になってきたので、後ろ髪を引かれる思いで再び車をUターンさせ、大きな満足感を胸に二人とも瑠璃光寺を目指してアクセルを踏んだ。

追伸・・・当日140kに参加した私達はと言うと、田中さんは初参加で見事、完踏を果たした。私は残念ながらリタイア・・・。
シャトルバスで3:00に瑠璃光寺に着いた私は、何故か身の置き所がなく、ゴール手前600〜700mの地点で、70k、140k、250kのランナーの帰りを迎えた。2時間!「お帰り!」「あと少しだよ!」「ゴールでみんなが待っているよ!」と声をかけ続けた。うらやましかった。声をかけながら、きっと彼等に自分をダブらせていたのかも。
瑠璃光寺のゴールに向かおうとした瞬間、背後から「原田さ〜ん、帰ってきたよ、まだ走っとるばい!」と叫びながら、淵上、江口ペアーが満面の笑みを浮かべて走ってきた。
「おーッ、おかえり、ナイスラン!!」 そして5時を少しまわったゴールに田中さんが、今年で140k、3回目の挑戦で完踏を果たそうとする村田さんと一緒に、顔をクシャクシャにしながら、しかしうれしそうに帰ってきた。私はハイタッチで迎えた。

「よくやった、おめでとう」・・・

こうして、今年の私の萩往還は終わった。そしてここから、今日から来年の萩往還が始まる。来年こそは完踏記を!

※すみません、ちょっと長くなりすぎました。でも自分の気持ちを書けただけでも大満足です。今回一番感じたのは仲間がいるというのは最高ですね。色々な経験を共有でき、本音で喜び合える・・・すばらしいと思いました。

(注):立石観音の事か?(管理人注記追加)


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