覚障害者(盲人)マラソン・伴走ガイドJBMA編

2000,01,19

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視覚障害者のランニングを手助けしようと思われた貴方、興味を持たれた貴方、
その勇気とお気持ちに感謝いたします。


この伴走ガイドは走る以外にも一般的な視覚障害者の方への接し方などが書かれています。
 視覚障害者の方の前から席を外すときには一言声をかけて! 
   知らないと空間に向かって話して恥ずかしい思いをします。 などなど
 日本盲人マラソン協会発足時に視覚障害者自身が作った伴走ガイドを一部改版しました。


視覚障害者の方がランニングを行うときには一般的に伴走者と呼ばれるガイドが必要です。
伴走者は障害者ランナーの安全を確保して快適に走れるよう、
また実力を充分に引き出せるように伴走しなくてはなりません。

この伴走ガイドが,これから伴走をしていただける方に少しでも参考になれば幸いです。


始めに

目の不自由な人達にとってスポーツを継続して行なうことは難しいことです。
これを解決するために理解ある晴眼者の応援を得て視覚障害者マラソンを始めるようになりました。
皆さんの中には今までに自分の家族や知人に視覚障害者がいなかった、
あるいは、視覚障害者に接する機会が無かった等の事情で、視覚障害者に対する理解や正しい知識の無い方もおられるのではないかと思います。
その一例として、視覚障害者は歩くことや、身の回りのことも一人では何も出来ないと思っていたのではないでしょうか。
それなのに、“視覚障害者がマラソンに参加する”と聞いて驚くのも無理はないと思います。
視覚障害者が伴走者のガイドで走り始めたのはつい最近のことで、一般にはほとんど知られていない存在ですし、
その理解者が少ないので当然なことと思います。
では、視覚障害者とはどのような人なのか、初めて視覚障害者マラソンに手を貸して下さる人達の中には、
こんな素朴な考えを持つ方があると思います。
又視覚障害者ランナー側も伴走して下さる人達には、この程度の事だけは心得ておいて頂きたいと思うこともあります。
そこで、視覚障害者マラソンが今後楽しく安全に行なわれていくために、お互いにぜひ心得ておきたいと思うことを“視覚障害者マラソンガイド”として列記致しました。


1.目が不自由な人

今、日本にはおよそ 36万人の視覚障害者がいると言われております。
視覚障害者とは、目が不自由というハンデキャップを持っている人を指しています。
視覚障害者といいますと、性格が消極的で暗いとか、自己中心的だとか、他力本願だとかよく言われますが、
決してそうではありません。
晴眼者の中にもいろいろな性格の人がいるのと同じで、人間として何の違いもありません。
たまたま目が不自由だと言うだけの違いですので、間違った先入観はお持ちにならないで下さい。
歩行訓練を受けた視覚障害者は、道路を歩行する時白杖を使用し、単独で何処へでも行 く事が出来ます。
又は盲導犬の誘導によって、歩行の目的を果たしている人もおります。
その他、都合によって視覚障害者が任意に依頼した誘導者の介護で歩行する場合もあります。


2.視力についての用語

目の不自由な人を一般には、盲人とか視覚障害者と呼んでおりますが、最近では聞いた感じの良い
視覚障害者という方が多く使われており、盲人という言葉が少しづつ敬遠されているようです、
但し「めくら」という言葉は軽蔑の意味が強いので絶対に使用しないで下さい。
又、視覚障害者を大別して、全く物が見えない人を全盲と言い、多少視力が残っている人を 弱視 と呼んでいます。
視覚障害者の社会では、身体に何の障害も無い人を健常者と言い、視力に何の障害も無い人を晴眼者と呼んでいます。
このような用語は、誰でも常識として覚えておいて、適当に使い分けて下さい。


3.視力障害者の実生活と職業

幼い時からの視覚障害者はほとんどが盲学校で学び、盲学校の高校を出ると、最近一部の学生は一般の大学に進学して社会に出る人が増えてきました。
かって晴眼者であった人が、青年期あるいは中高年で疾病とか事故等で視覚障害者になった人を 中途失明者 と呼んでいます。
盲学校の出身者や、中途失明者の一部の人達は点字を習得して、これを勉学、職業、趣味のうえに活用しています。
又、カセットテープの出現により、これを点字と併用する事によって、視覚障害者は多くの利便が得られるようになりました。
さらに、視覚障害者にとって文明の利器とも言われる物に点字タイプライターがあります。
又、ボタンを押せば言葉で報せる腕時計、血圧計、体温計、体重計等、視覚障害者の日常生活に役立つ新製品がぞくぞく開発されています。
日本では、視覚障害者の職業の多くが、鍼、灸、マッサージです。この職業を総称して三療と呼んでいます。
昔から使われてきた「あんまさん」という言葉は、今は使うことがタブーになっていますので使わないほうが良いと思います。
この他の職業としては視覚障害者で弁護士、大学・高校等の教諭、福祉施設長、会社社長等の逸材もおります。
又、プログラミング、あるいは、パソコンやワープロを使いこなすような視覚障害者も少しずつ増えています。
その他、電話交換手、公務員、音楽家もいます。
しかし、盲界では職業を広げるため、更に懸命の努力を続けているのが現状です。


4.視覚障害者と爽やかなお付き合い

1)視覚障害者と出会った時
晴眼者のほうからまず、自分の名前を名乗って下さい。これが正しい挨拶の形式で礼儀でもあります。
これは晴眼者同志が相手にお辞儀をするのと同じ意味があります。
従って、視覚障害者と別れる時も声をかけて挨拶するのが良いと思います。
途中で中座するときなどは、視覚障害者に一声かけてから中座してください
目の前にいると思い、話し掛けて恥ずかしい思いをする事があります。

2)視覚障害者と交わす話題
テレビ、新聞、雑誌、その他、目に触れたこと、何でも結構です。タブーとする物は一切ありません。

3)視覚障害者と町を歩くとき
a.介護者は、肘関節の上部を視覚障害者に握らせ、半歩前方を歩きます。
特に混雑する場所では視覚障害者を介護者の直後につかせたほうが安全です。
どんな場合でも、視覚障害者を前にして介護者が後から押して歩くような事は、視覚障害者に強い恐怖心を与えますので絶対にしないで下さい。
b.介護者が視覚障害者から離れる場合は、視覚障害者を椅子に座らせるか、壁又は柱に触れさせ、決して空間に放置しないで下さい
c.道路の凹凸、段差、曲がり角、階段の昇り降り、坂道の始まりと終わり、空間の障害物、その他、危険と思われる箇所は、多少早めに視覚障害者に知らせて下さい
d.乗用車に乗る時は、介護者が扉を大きく開き、まず視覚障害者に車の入り口の屋根の部分をつかまらせて乗車させから、介護者が乗り込んで下さい。
電車に乗る時は、視覚障害者の手を車体に触れさせて、介護者が先に乗り、車体とホームの隙間に視覚障害者が足を落とさないように声をかけて注意して下さい。
降りる時は、視覚障害者に降車口の手摺りをつかまらせて、スリ足でホームとの隙間を確認させながら降車するように言葉で指示して下さい。
e.視覚障害者を椅子に掛けさせる時は、視覚障害者の手を椅子の背もたれの上部に触れさせて椅子の位置を知らせます。
背もたれの無い椅子は、視覚障害者の手を腰掛ける位置に触れさせながら、テーブルの方向を教えて下さい。
f.人の前であまりにオーバーなサービスをする事は、いたずらに障害者を無能に見せる結果となり、人格を傷つけるなります。
人前でのスマートな身体の動きは視覚障害者の品位を高めるためにも大切な事です。

4)屋内で視覚障害者にガイド
視覚障害者と一緒に外食をする時は、まずメニューを読み、品名と値段を必ず伝えて下さい。
食事を始める前に、視覚障害者の卓上にある食物の位置を視覚障害者の手をとって一皿ずつわかりやすく説明するか、
あるいは卓上の器の位置を時計の文字盤上の位置を応用して教えて下さい。
視覚障害者が食事の際に困る事は、ワサビとカラシの処置、弁当あるいはお皿の中にある食べられないプラスチックや
アルミニウム製の容器、チューブ類、仕切り等なので、介護者はまずこれらを取り省いて頂きたいと思います。

5)金銭の受け渡し
金銭の受け渡しは、間違いがあると不愉快な感情が残ります。
それに、大事な信頼感までも失ってしまう事もありますから、特に気をつけてほしいものです。
視覚障害者が買物などを頼むためにお金を出した時には、一般の店の店員がするように、お金の額をはつきり言って受け取ってください。
また、あなたが視覚障害者にお金を渡す場合も「ここに置きますよ」などと言って、机の上などに置かないで、
確かめられるようにゆっくり手に渡してください。

6)視覚障害者の趣味、娯楽、スポーツ
視覚障害者の趣味は、ほとんどが晴眼者と同じですが、比較的愛好者の多い囲碁、将棋等は有段者もいるほどです。
洋楽、邦楽、観劇等の観賞、あるいは旅行、社交ダンス、茶道、華道、短歌、俳句、川柳、文芸、読書、海釣り、
山登り、探鳥、歌唱、詩吟、邦楽全般、その他、競馬、宝くじ等、夢とロマンを楽しんでいます。
この他に、アマチュア無線、オーディオ、パソコン、ワープロ、等の愛好者もおります。
視覚障害者の娯楽に、テレビ、ラジオがありますが、その中で好きな番組は、 ニュース、スポーツ放送、その他の娯楽番組が多いようです。
野球や相撲の放送はテレビよりラジオのほうが描写が詳しいので好まれるようです。
視覚障害者が出来るスポーツの種類は、晴眼者と比べますと残念ながら非常に少なく、その理由の第一は視力が原因なのです。
その解決策としては正規のルールを多少変えるとか、何らかの工夫すればまだ実行出来るスポーツはかなり有るようです。
その顕著な例として、視覚障害者マラソンは伴走者の誘導さえあれば、ジョギングから始まってフルマラソ ンまでも可能で、
視覚障害者の健康増進と、コミュニケーションの拡大に役立ち、その結果充分にライフワークとしての目的を果たす事が出来ます。


7)視覚障害者が利用する交通運賃の減免
身体障害者手帳を所持する視覚障害者は、JRを始め、私鉄、バス、船舶等の料金は、障害の程度にもよりますが、ほとんど介護者共に半額です。
東京都の電車、バスは、視覚障害者は全額無料の乗車パスを所持しています。
航空運賃は、視覚障害者とその介護者共に2割5分引きです。
地方公共団体の一部では、無料タクシー券を出している所もあります。
介護者にも視覚障害者と共に交通費の減免という特典がありますので、是非この制度をご利用下さい。

6.視覚障害者マラソン伴走者へのお願い

視覚障害者ランナーの伴走者として、初めて手をさしのべて下さる方に、その勇気と、爽やかな友情に心から感謝いたします。
では、まず伴走を始める前に、目を閉じて5〜6m走ってみて下さい。これで視覚障害者ランナー達の気持ちが少しわかると思います。

●視覚障害者マラソンでは、視覚障害者の危険を防止するために、晴眼者の伴走で走ります。
走る時の伴走者の位置は、視覚障害者ランナーの左右いずれでも良い事になっています。
伴走の方法は、直径1cm、長さ 50cmの堅牢なロープの両端を、互いに片方の手で握り並んで走ります。
但し、練習の時には視覚障害者ランナーが初心者の場合、あるいはロープの使用が不適当と思われる危険な場所等では、
互いにスクラムを組むか、手をつないで走る方法もあります。
ロープを握って走る場合の伴走者は、いかなる場合でもロープを離さぬよう特に注意して下さい。

●伴走者の走力は、視覚障害者ランナーよりも多少上回っていなければなりません。
つまり伴走者は、視覚障害者ランナーよりも 5kmのタイムで 5分以上早い事が理想的です。
伴走者は、視覚障害者ランナーと平行か、あるいは半歩ぐらい後方の位置で伴走したほうが視覚障害者ランナーにとって走りやすいようです。
このようにして走りますと、視覚障害者ランナーのペースで走れますので、極めて快適に走れます。

●視覚障害者ランナーが最も不安に思う事は、走路上の状態です。
スタートしましたら、伴走者はまず視覚障害者ランナーの前方と隣を見て、他のランナーとあまり接近しないよう安全な間隔を保持して下さい。
次に路面の凹凸、段差はなるべく避けながら走り、避けきれない時は状況を言葉で知らせて下さい。
伴走者は、絶えず走路の前方を注意し、曲がり角、上り坂、下り坂を発見したら、まずその10mぐらい手前で伝え、
更にその地点で再びここから左折とか、上り坂とか指示して下さい。
尚、曲がる場合には90度左折とか、45度右折とか、折り返し、Uターン、あるいは急勾配の下り坂などと、具体的な状況の伝達が視覚障害者ランナーから喜ばれます。
走路を変える場合などは、 1m 右 というように具体的に指示して下さい。
視覚障害者ランナーが目上の方 の場合でも伴走中は極端な敬語は不要です。簡単明瞭な言葉が最適です。
走行中に、前方や隣のランナーが極度に接近したり、道幅が極端に狭い場所とか、危険と思われる場所では、
視覚障害者ランナーの走りをやめさせて、伴走者の腕に視覚障害者をつかまらせ危険を避けて下さい。

●視覚障害者ランナーは、走路から見える風景、その他の状況を知りたいと思いながら走っていますので、
走路上に何の危険も無い状態の場合は、適当に風景の様子を伝えて下さい。多少リラックスして走れると思います。
競技の時は無論ですが、練習の時でも、走行中に経過した距離と所用タイムを、視覚障害者ランナーに言葉で伝えていただきますと、ペース配分に役立つと思います。

●日本盲人マラソン協会の競技規定では、伴走者は定められた形状のロープを使用して視覚障害者ランナーの伴走を行なう事になっています。
また、伴走者が視覚障害者ランナーよりも前方へ出たり、引っ張って走ったり、あるいは、視覚障害者ランナーを後方から押すような助力を与える行為は禁止しております。
つまり、伴走者の役割はあくまでも視覚障害者ランナーの安全走行を目的とし、あらゆる危険を排除する立場で伴走することが定められています。

日本盲人マラソン協会発行(平成 5年 8月 第 2版)の伴走ガイドを参考にしました。


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