「伴に走る」

茨城県龍ヶ崎市:山崎さん(2003.51.18掲載)


何気なく「伴走」という言葉を使っているが、この言葉奥が深いと最近思う。

ブラインドランナーが競技や練習で走るとき、ロープを握って案内しながら一緒に晴眼者が走る事を「伴走」と言っている。昔の箱根駅伝で監督が乗って身を乗り出して指示を送っていた自衛隊のジープも確か「伴走車」と呼んでいたと思う。

「伴(ばん)」という字を訓読みすれば「伴う(ともなう)」だから、文字通りに解釈すれば、伴走とは晴眼者がブラインドランラーに「伴って」走る、言い換えれば被伴走者(ブラインドランナー)が主役で、伴走者(晴眼者)が脇役ということになる。

ところが最近、パソコンに「ともに」と入力して変換すると「共に」の他に「伴に」という漢字がでてくることに気がついた(広辞苑には「共に」又は「倶に」しか出ていないのだが……。)。伴走には「伴って走る」という意味の他に「伴に(共に)走る」という意味もあると、自分なりに理解することにした。

私は、盲人マラソンでの伴走経験も浅く、まだ「伴走」について多くを語れる立場にはないが、ブラインドランナーが主役で伴走者が援助する「伴って走る」伴走でなく「伴に走り」、「共に楽しみ」、「共に目標を追い求める」ような伴走を心掛けたいと思っている。勿論、ロープを握る晴眼者がブラインドランナーに進路を知らせ、路面の危険個所を知らせ、安全を確保するのは当然だが、伴走者がブラインドランナーをサポートするだけでなく、お互いのために一緒に走って、伴に楽しめたら素晴らしいと思う。

実は、わずかな経験の中でこの「伴に走る」を2回実感した。 一度は、3月中旬に代々木の練習会でYさんの伴走をしたときである。走力はYさんの方が私より上である。Yさんは霞ヶ浦のレースに向けての走り込みということで、私はYさんのロープの端をもって一緒に約30キロ走らせてもらった。何故「もらった」と表現したかというと、私は独りだったら到底1キロ4分半ペースで30キロも走る練習はできないのだが、Yさんと一緒に走ったお陰でとても楽に走らせてもらったと実感できた。(Yさんと私は偶然にもピッチが同じで、全く意識せずに足が合うことも楽に走れる一因かもしれないが……。)

もう一度は、その翌週の荒川市民マラソンで長野県のSさんと一緒に走った。SさんはB3なので伴走は要らないから、世に言う伴走ではないけれど、2人であれこれしゃべりながら並んで走った。Sさんも霞ヶ浦に向けての調整ということで、3時間10分くらいを目標に、前半はゆっくり、後半徐々にペースアップしていった。結果は設定通り3時間10分(4秒オーバー?)で一緒にゴール。私がこれまで走った30数回のフルマラソンの中でこのマラソンが一番楽しく走れたと思う。私と一緒だったからこのタイムで走れた、とSさんは言ってくれたけれど、私の方こそSさんのお陰で走れたと思っている。もし独りだったら、いつものようにオーバーペース気味にスタートし、後半あえぎながら苦しい思いをして、しかも結果的にはもっと遅いタイムでゴールしていたのではないかと思う。

伴走のことを友達に話すと、相手の人のペースで走ると疲れるでしょう、と言われることがある。断じてそんなことはない、と私は思う。レースに独りで参加して、前半ついついオーバーペースになって、後半崩れることが多いことを考えると、伴走の場合には互いに設定したペースを守って走れる上に励まし合いながら走れるので、むしろ良い結果が出るのではないだろうか。

そういえば、今年の箱根駅伝には、関東学生陸連選抜チームが初めて出場して話題を呼んだ。予選会で涙を呑んで箱根路を走ることのなかった大学から選手を選抜してチームをつくりオープン参加するという初の試みであった。実は私の母校からも選抜チームに選ばれた選手がいて何十年ぶりかで母校のユニフォームが箱根路を走ったので楽しみにしていた。予選通過はできなかったとは言え各大学のエース級が揃っているので、上位に食い込めるのではないかと密かに期待していた(私は出場選手の持ちタイムを正確に承知しているわけではないので、間違っているかも知れないが)。

――結果は、選抜チームはほとんど最下位に近い順位だった。 よく駅伝はチームワークが大切であるといわれる。いくら強い選手を集めても、心の通った襷を繋がければ、駅伝では勝てない。 多分選抜チームは、個人記録は残るがチームとしてはオープン参加ということもあり、心を繋ぐまでのチームワークは築けなかったのではないかと思う。

走る力が仲間の力を借りて増幅され、独りで走る以上の力が出る、という点で駅伝と伴走は共通しているように思う。襷とロープは実力以上の力を引き出す触媒のような働きをするのではないだろうか。

そんなことを考えると、走力の均衡した者同士がロープを持って伴に走って、ブラインドランナーも晴眼者も自己ベストを更新するなんて言う走りができたら素晴らしい。複数(3〜4人)で交代交代にロープを持ちながら伴走し、ブラインドランナーを含め皆が自己ベスト更新を目指すというような伴走もいいな、などと夢のようなことを考えている。

私は、走る目的は記録更新だけと思っているわけではない。走る目的は、走ることそのものを楽しみ心の充実感と身体の健康を得ることであり、副次的には走るという種目を通じて人間関係を築くこであると思っている。

従って、走力に差がある者が伴走する場合、すなわち、一般的な伴走においても、ブラインドランナーを援助するのみの伴走でなく、互いの力を借りて「伴に」楽しく走る「伴走」に心掛け、互いの走る目的を達成するという気持ちで走りたいと思う。

今まで、どこの走友会等にも属さず、独りで走り続けてきた私であるが、これからは、機会を見つけて多くの人と伴に走り続けていきたい。


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