こいのぼりがメロンになった日

えっちゃん:2000/12/14


12月4日(月)朝の事、洗濯物を干し終わってほっとしたその時、電話が・・・・「新野です。頼んでいた伴走の方が、急に都合が悪くなって代わりを探しているんですけどなかなか見つからなくて」、新野さんのその声は元気がありませんでした。11月12日「視覚障害者小田原大会の10Kの部に出場した時の新野夫妻は二人とも3位に入賞してとても明るかったのに。この大会でご主人の正仁さんを順天堂大学3年の奥田真一郎君が伴走し、奥さんの紀代美さんを伴走したのが私でした。二人は10Kを走った1週間後に地元の磐田マラソン(21K)に出場して、12月10日初めてのフルマラソンを袋井メロンマラソンで走ることにしていたのです。

地元の知り合いや、マラソン事務局にお願いしたものの伴走者は見つからず小田原で伴走した私のことを思い出したようでした。話を聞くにつけ欠場したくないと言う気持ちが伝わってきて「紀代美さん走りましょう。御主人の伴走をしてくれる人を探してみます」

そんなことを言って電話を切りました。すぐにパソコンを開けて伴走を受けてくれそうなランナーに「お願い」のメールを送信し、JBMA(日本盲人マラソン協会)のクニさんにも伴走メールを送信してもらい、返事を待ちました。そんな中、織田フィールドでアトミクラブのミホちゃんに合い伴走OKの返事をもらうことができたのです。

しかし、10日「加須こいのぼりマラソン」にエントリーしていた私達、ミホちゃんに参加はがきを渡して引き換えしてもらう積もりがミホちゃんも行かれなくなり、2枚の葉書は速達で埼玉の走友のところへ送られることになりました。

そして迎えた10日朝、東京駅6:07分こだま401号に乗った二人、車中で駅弁を食べながら話は尽きない、あっと言う間に掛川駅に到着、ローカル線に乗り継ぎ袋井駅で降り、バスで県立袋井商業高校前で下車。大会会場受付近くでミホちゃんが携帯電話をかけてみるとすぐ後ろに新野夫妻は付き添いの方と一緒に待っていました。お互い握手を交わし「完走目指して頑張りましょう」と健闘を誓い合いました。正仁さんは4時間・紀代美さんは5時間を目標にしている。制限時間は5時間30分、関門が2ヶ所にあって22kが3時間05分・36Kが5時間。ミホちゃんはラップタイムを手首に書き、やるき十分。

午前9:30分約3000人のフルマラソンランナーが走りだした。ミホちゃんペアは手を握り合って和気あいあいムードを見せつけて私達の前から姿を消してしまった。

新野夫妻は静岡県磐田郡豊田町ではり・マッサージの治療院をやっている40代前半の若い夫婦。走りはじめて2年目。今まで一番長い距離を走ったのがハーフマラソンで3時間走もやったことがないとのこと。レース後半が心配なミホちゃんと私。

スタートして順調にペースを守って走り続ける、メロンのビニールハウスや茶畑が点在する田園風景が広がり、景色を楽しむことができた。中間地点に近い上り坂で急に紀代美さんのスピードが落ち始めた、疲れがでてきたようだ、丁度その時、「エーデルワイス」の曲が聞こえてきて、時計を見ると12時ジャスト。やがて第一関門のデジタル時計がみえてきた、通過時間を紀代美さんに伝えようとしたらナント「2時間22分22秒」。

「紀代美さん、カメラでこの瞬間撮りたかった〜。」「22K地点よ、すごいね。」紀代美さんもニッコリ。「ホントだ」といってるボランティアさんに笑顔で手を振り最初の関門を後にしました。ここで気分転換ができた私達は時々通り過ぎる救護車を見て「乗りたくないね」などと強気の言葉を口にしたり、「最後までがんばってね〜。」と言ってくれる沿道の声援に「絶対、完走しま〜す。」と言いながら30K地点を通過できた。

しかし、足は重くなってきたのがよく分かる、「36Kまでは歩かないで頑張ろう」心を鬼にして言う。読んだばかりの松田千枝さんの本が浮かんできた。「足が一歩も動かなくなりそうになる、そんな時、タッタカ、タッタ・タッタカ、タッタというリズムに集中すると、そこから抜けられるんだ。」(高石ともや)千枝さんの新刊のこの部分を思い出して「ふぁいとー・ふぁいとー」・「いちにー・いちにー」の掛け声を繰り返すと、不思議に走れる。紀代美さんは歩かずにとうとう36Kの関門にたどり着いた。

「よく、頑張ったね4時間30分で通過よ」の言葉に「うん」とうなづき走リ続ける。沿道の応援が多くなり「もう少しだ、がんばれー」「おかえりー」走り終わったランナーも声援を送ってくれる。ゴール近くで迎えてくれたミホちゃんに引っ張られるように、ゴールに駆け込みました。5時間17分05秒。抱き合って「よくがんばったね」「おかげさまです、ありがとう」紀代美さんの頬に大粒の涙がつたって流れていました。御主人の正仁さんは既にミホちゃんと共に4時間08分12秒でフィニッシュしていました。

新野夫妻からお土産げにもらったメロンを片手に帰りの新幹線に乗り、ビールを飲みながら今日の充実した一日を話しているうちに東京駅に着いてしまいました。

3週間前に東京国際女子マラソンを完走したミホちゃん。はじめてのフルマラソンの伴走を一人で引き受けてくれて本当にありがとう。正仁さんと紀代美さんに「とても楽しかった」と喜んでもらいました。4月の霞ヶ浦マラソンはミホちゃんにまた一緒に走って欲しいと正仁さんが言っております。私も紀代美さんと約束しました。 

「こいのぼり」が「メロン」になってしまったけど、味わい深い一日だったよね。

えっちゃん


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