かすみがうらマラソン2006
=クニさんのhearty&fantastic伴走=

千葉県:荒谷惇子さん(2006.05.19掲載)


★その3 ゴールラインはオレンジ色

「マラソンは30キロからが楽しいんです。」その言葉を信じて走った。去年は20キロから足の筋肉がつり 回りの景色を楽しむ余裕など全くなかった。
こんなアップダウンがあったのだ。こんな細道を通ったのだ。見た事もない景色がテレビ画面のように流れて行く。雨が上がり どこまでも続くレンコン畑に空が映えてまぶしい。小鳥の声に混じって蛙の低い声も聞こえる。

「さっきまでとん汁もあったんだよ。来年は15分早くおいで」と 私設エイドのおばさんが笑って言った。漬物が美味しかった。

「すみません。ちょっと洋服を直します」と 言われたとき以外は ロープを意識する事はなかった。常に少し後ろを走っているからだろうか。声はずうっと聞こえているのだが 伴走者の存在を感じないのは去年と同じだった。だから今年は確認しようと思わないで まっすぐ前を向いたまま走った。全てを信頼して命を預けている自分に気付いた。

「知り合いがいる。話しても良いですか」と伴走者が聞いた。全力を尽くして伴走しているからこそ 出てくる言葉なのだ。

伴走者がトイレに寄ったので しばらくみやちゃんと走った。後ろから伴走者が追いかけてくるのを感じた時 鬼ごっこをしているような楽しい気分になった。

サクサク!サクサク!と耳慣れない足音が近付いてきた。これが伴走者なのか。また元のように一緒に走り出した。耳を澄ませた。さっきの足音が聞こえない。
不思議だなあ。

「後5キロですよ。」

30分後にゴールするのかと思ったら 胸がドキドキして来た。ゴールがどんどん迫ってくる。「あのお 歩いてもゴールできますか。」「今4時間10分だから 間違いなく制限時間内にゴール出来ます。」ゴールシーンを想像した。
胸が熱くなって痛い。ゼッケンの辺りを撫でながら走った。

「一人 二人…六人 七人…」後で 何のことか聞いてみた。抜いたランナーを教えてくれていたのだ。「抜いた!と言ったらそのランナー後数キロ地点か?ががっかりするでしょう。後1キロです。ここまで来たら誰でも力が出ます。」

イッチニ イッチニ 両側から二人の声が揃って聞こえた。私も声を出そうと思ったが 声を聞いていたかった。目を閉じて少し足に力を入れた。空を飛んでいるようだ。夢を見ているのかな。このまま子守唄のようにずうっと聞いていたいな。
「ここのふくらみに気をつけて。右に曲がったらもう競技場。皆が応援していますよ。」私は目を開けて右手を振った。

「後10メートル 5メートル 3 2 1 はいゴール!」その瞬間 ロープを上げてくれた。あ!ここがゴールラインだ。目の奥にオレンジ色に輝くラインが見えた。それをしっかり踏んで走り抜けた。体中で喜びを感じた。

いつもゴールラインがはっきり分からず 走り抜けてから もうゴールしましたよと言われる。それがもどかしくて その瞬間を共に感動したいという願いが叶ったのだ。

クニさん。みやちゃん。言葉には表せない感動を下さってありがとうございました。

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